■関連フレームワーク
◆インセプションデッキ
行政職員自らが、ローコードツール等を活用し業務効率化や市民サービス向上のためのシステム構築をするケースが増えています。その際に、アジャイルな開発手法、つまり、必要最小限の部門横断的なチームで、プロダクト構築とリリースを段階的に繰り返していくスタイル、の採用を検討されることも多いでしょう。
インセプションデッキとは、アジャイル開発においてプロジェクトの全体像を明確にし、チーム全員が共通の認識を持つためのドキュメントです。プロジェクトの背景や内容、優先順位、関係者、リソースなどの重要な要素について意識合わせすることで、チームメンバーが一体となってプロジェクトに取り組むことを目指します。
■関連スキル
アジャイル開発
■本ツールのレベル ※フレ ームワーク自体のレベルではありません
中級
■どんなツールなのか
インセプションデッキは、プロジェクトの目的や方向性をチーム全体で共有し、全員の理解を揃えるためのツールです。アジャイル開発では、事前に詳細な計画を立てるのではなく、柔軟に対応しながら進めるため、プロジェクト初期段階での認識共有プロセスが重要です。
この手法は、システム開発の成功率を高めるために考案されたもので、「インセプション」という言葉は、「始まり」や「発端」を意味します。チーム全員が一斉にプロジェクトの「始まり」を理解することを目的としており、これを通じて後々の 誤解や課題を最小化します。
インセプションデッキでは、以下のような基本的な10の質問に答えます。
我々はなぜここにいるのか?
エレベータピッチ
パッケージデザイン
やらないことリスト
ご近所さんを探せ
技術的か解決策を描こう
夜も眠れない問題
期限を見極める
トレードオフスライダー
何がどれだけ必要なのか
これらの質問に答えることで、プロジェクトの全体像を簡潔に把握でき、特にITやシステム開発に詳しくない行政職員でも、プロジェクトの目的や役割を理解しやすくなります。
インセプションデッキは、技術的な議論に深入りすることなく、チーム全体で「何を目指すべきか」「どのように進めるべきか」を共有できる、初期段階における非常に有効なツールです。
インセプションデッキはシンプルで誰にとってもわかりやすいものですが、特に自治体内のように、ITに関する専門的な知識を持たないメンバーがプロジェクトに含まれる場合、カスタマイズすることで、より使いやすくなります。
例えば、開発対象がどんなものかを説明するエレベータピッチのセクションでは、「首長に説明するとしたら」の一言を添えるカスタマイズを行っています。これにより、手段ではなく、価値や目的に焦点を当てた記述を促すことができます。
■誰の役に立つのか
インセプションデッキはアジャイル開発プロジェクトでよく利用されていますが、アジャイル開発以外のプロジェクトにも有用です。例えば、次のような問題意識を抱えている行政職員の方、特にプロジェクトリーダーの方に役立ちます。
業務効率化プロジェクトを実施することになったが、部署や立場が違うので、全員の理解を揃えるのが難しい。
プロジェクト計画書など、詳細なドキュメントを作成したくはないが、関係者と基本的な合意を取り付けておきたい。
■前提や予備知識は必要か
特に不要ですが、アジャイル開発の概要を知っておくとさらに利用しやすくなります。
■どのように利用するのか(進め方・所要時間)
キックオフミーティングのファシリテーターは、このデッキの狙いや10の質問の意味を簡単に説明し、その後、順番に各質問に対する議論をスタートします。参加人数が多い場合は、グループに分けて議論し、その後集約するやり方も良いでしょう。
インセプションデッキは全員で完成させるドキュメントではありますが、白紙で持ち込むよりも、わかっている情報はプロジェクトリーダーがあらかじめ記載しておくと効率が良いでしょう。例えば、福井県高浜町の場合は、「我々はなぜここにいるのか」「エレベーターピッチ(首長に説明するとしたら)」に関しては事前に記載した状態でキックオフに臨みました。
ただし、あらかじめ記載した質問に対する回答に関しても、必ず参加者と話し合いを行い、あらためて内容を合意する必要があります。
所要時間は、あらかじめわかっている情報の量や参加人数にもよりますが、1時間から2時間を想定してください。

■なぜ有用といえるのか(実績等)
行政職員はいわゆる縦割りと呼ばれる状況で複数の関係者と仕事を進める機会も多いですが、思い込みや部署ご との利害の違いなどで、行き違いや誤解が生じるケースもあります。
インセプションデッキを関係者間で合意しメンテナンスしていくことで、余計なトラブルや無駄を防ぐことが期待されます。
特に、「なぜ作るのか」「関係者は誰か」「優先度」についての合意に効果があります。例えば、福井県高浜町における事例では、関係者内の優先度を早期にチーム内で認識し、実ユーザーとなる関係者に試してもらう機会を増やすことで、開発を効率よく進めることができました。
■もっと学びたい方は
(アドバンス研修・実習)
特になし
(参考文献とその概要)
アジャイル開発実践ガイドブック🔗(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室,2021)
省庁職員を読者と想定してアジャイル開発についての基本知識を解説しています。インセプションデッキについても言及されています。
東京都アジャイル型開発に係るプレイブック🔗(東京都,2024更新)
東京都においてアジャイル開発のプロジェクトがどのように実践されたかを現場のリアルな声を拾いながら多角的に紹介しています。非常に読みやすく、親しみやすい“読み物”となっています。
(関連フレームワーク等)
(関連ケーススタディ)
アジャイルアプローチによるノーコード内製開発(福井県高浜町)
■著作者・連絡先
岡島 幸男(株式会社永和システムマネジメント)
■関連研究・事業
公共アジャイル推進研究会
■掲載年月
2024年8月
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